episode1 朗読 岩田光央
「しっかり稼いできて」玄関先でお腹の大きな妻に見送られて、家を出た。
もうすぐ生まれてくる我が子と妻を家に残していくのは心配だが、仕方がない。漁師の俺は真夜中、漁港へと車を走らせる。
海へと出た俺は、今日も勘が冴えて、そこそこ大漁だった。
仕事終えて帰宅するが、今日は検診日なので誰もいない。
ふと留守番電話にメッセージ残されているのに気がついた。妻の事故の報せだった。
俺は急いで車を走らせ、病院へと向かう。頼む、二人とも無事でいてくれ……。
episode2 朗読 細谷佳正
ついてない……ようやく強化選手に選ばれた矢先なのに、今は病院のベッドの上。
俺は代々続く剣道家の家に生まれ、幼い頃からずっと剣道をやってきた。
でも高校生になったとき、オリンピックで剣の実力を試したくなり、思い切ってフェンシングに転向した。
父には反対されたが、俺はどうしても自分の中に流れる「血」が世界一であることを証明したかったんだ。
苦心の末、ようやく認められ、チャンスを手に入れた。それなのにこんな状態で入院だなんてあんまりだ……。
episode3 朗読 吉野裕行
カセットテープで洋楽を聴きながら、身支度を整える。毎朝のルーチンだ。
仕事がテレワーク中心になってから数年が経ち、髪も随分長くなった。
俺の目標は、親父と同じ年齢まで全力で生きること。
その日まで、あと二日。仕事もすべて片付けたし、伸ばした髪も切った。もう思い残すことはない。だから最初で最後の願いを聞いてほしい。
――なあ、本当はいるんだろ? そこに……。